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東京地方裁判所 平成11年(ワ)1647号 判決 1999年8月27日

原告

佐久間良子

右訴訟代理人弁護士

柴田敏之

澤口秀則

小畑英一

本山正人

柴田祐之

被告

政治結社國粹青年隊会長こと

細田敏夫

右訴訟代理人弁護士

鈴木秀男

主文

一  被告は、原告に対し、被告自ら左記の行為をしてはならず、使用人又は第三者をして左記の行為をさせてはならない。

1  原告の自宅入口を中心とする半径五〇〇メートルの範囲内(別紙図面において赤線で囲まれた部分)において、街頭宣伝車等の車両若しくは拡声器等を用い、原告に関する演説を行い、又はテープを放送したり音楽を発すること

2  原告の自宅敷地内に入り、原告及びその家人の生活の平穏を害すること

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、女優として芸能活動を業とする者である。平岳大は、原告の長男であって、原告方自宅で原告と同居している者である。

被告は、自治大臣に二つ以上の都道府県の区域にわたって活動を行う者として届け出を出している政治結社國粹青年隊(以下「國粹青年隊」という。)の代表者である。

2  平成一〇年一〇月二六日発売の「週刊現代」一一月七日号により、原告につき宗教団体霊示気学二穣会(以下「二穣会」という。)のいわゆる広告塔となって霊感商法に関与しているとの報道がなされたところ、被告は、同年一一月一三日、被告自ら又はその配下の者(以下「被告等」という。)を使って、原告の自宅に街宣車で乗り付け、平に対し、二穣会と原告との関係を問う質問状を手交した。

これに対し、原告及びその家人は、右質問状に対する回答を行わなかった。

3(一)  被告等は、同月一六日午前一一時ころ、原告自宅周辺において街宣行為を開始し、同月二五日までの間、別紙街宣活動表記載のとおり、二七回にわたり、街宣活動に及んだ。

(二)  すなわち、被告等は、右(一)の期間、原告の自宅周辺において、街宣車を極めて遅い速度で走らせ、拡声器を使用し大音量で、数一〇分にわたり執拗に、原告に対する個人攻撃を目的として、「女優」という文言を出しつつ、「悪徳宗教には気をつけましょう。有名人が誘っても入らないようにしましょう。」などと原告を著しく誹謗中傷する内容の声明を流して街宣活動を行った。

(三)  被告等の右街宣活動は、およそ正当な政治活動とは言えず、明らかに原告に向けられた嫌がらせであって、原告及びその家人の平穏な生活を著しく害するものである。

4(一)  被告等は、同月二二日午後三時ころ、原告の自宅を訪れて玄関の呼鈴を押し続け、原告又はその家人との面談を要求した。

(二)  被告等の右面談要求行為は、被告等による右街宣活動とあいまって、原告及びその家人を不安、恐怖に陥れ、その生活の平穏を害するものである。

5  被告は、今後も同様ないし類似の方法で街宣活動を行うおそれがある。

6  よって、原告は、被告に対し、人格権に基づく妨害排除請求権に基づき、被告等をして、原告の自宅周辺(別紙図面において赤線で囲まれた部分)で街頭宣伝車等の車両若しくは拡声器等を用い、原告に関する演説を行い、又はテープを放送したり音楽を発する行為を行わないこと並びに原告の自宅敷地内に入り、原告及びその家人の生活の平穏を害する行為を行わないことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2(一)  同3(一)は認める。

(二)  同3(二)のうち、「女優」という文言を出しつつ、「悪徳宗教には気をつけましょう。有名人が誘っても入らないようにしましょう。」という内容の声明を流して街宣活動を行ったという点は認めるが、その余は否認する。

(三)  同3(三)は争う。

二穣会は、念金浄化という非科学的儀式を行い、開運等の特殊な能力があるかのように誤信した者から、布施として通常は差し出すことが考えられない高額の金員を入会金、会費等の名目で支払わせ、更に数千万円単位の金員を返還の保証なく浄化の名目で預託させており、このような行為は不法行為を構成する。また、現在の科学では、人間は輪廻転生する魂が肉体という衣を着たものとまで判明しているのであるから、いかなる宗教といえども、人間存在につき正鵠を射ているとは言えず、このように科学的事実に反する教義をもって高額な金員を支払わせる行為は、不法行為を構成する。そして、原告はこれらの不法行為に故意もしくは過失により加担しており、共同不法行為を構成する。

被告等の街宣活動は、二穣会の不法行為につき、近隣住民に対し注意を促すとともに、二穣会に染まった者に対し目を覚ますよう促すための正当な行為であるから違法性がない。

3(一)  同4(一)のうち、被告等が平成一〇年一一月二二日午後三時ころ原告の自宅を訪れたことは認めるが、その余は否認する。

被告等は面談を要求したのではなく、事の真相を明らかにするために原告の自宅を訪れたものである。

(二)  同4(二)は否認する。

4  同5、6は争う。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因3ないし5について判断する。

1  請求原因3(一)及び同(二)のうち街宣活動の声明に右記載の文言が使用されていること、同四(一)のうち被告等が右記載の日時に原告の自宅を訪れたことは、当事者間に争いがない。

2  右争いがない事実に加え、証拠(甲二ないし五、六の1ないし8)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  平成一〇年一〇月二六日発売の「週刊現代」において、洗脳という危険な手法によって会員に金を貢がせる二穣会という新興宗教まがいの団体が存在し、原告は二穣会の広告塔的役割を果たしているとする報道がなされた。

(二)  同年一一月一三日、「國粹青年隊」と表示された二台の街宣車が原告の自宅前の道路に駐車していた。國粹青年隊関係の男性は、原告の自宅を訪れ、平に対し、原告に会いたい旨を申し向け、平が原告は不在である旨答えると、平に対し「公開質問状」と題する書面を交付した。

右質問状は、「霊示気学二穣会 代表二穣師女殿」、「会員 佐久間良子殿」との宛名で、「政治結社 國粹青年隊」を差出人とするものであり、「この狂乱の世中、藁をも縋る気持ちの国民の心の弱みに付け入る悪徳宗教団体や霊感商法などによって数多くの善良な国民が被害を受けている。この度、貴会もテレビ、雑誌、新聞などマスコミの報道で色々な事が問題になっている様だが、マスコミ等の報道が真実であるなら我々は、貴会の存続を認める訳にはいかない。」等と前置きした上で、一二項目の質問事項が記載されたものであった。右質問事項中には、「女優 佐久間良子は貴会の『広告塔』をしていると聞くが誠か」、「被害者の資産家女性と佐久間良子は本当に面識が無いのか」とのものがあった。そして、「以上の質問について、文章・紙面にて回答を早急に望む。何ら回答若しくは誠意が無き場合、公共の利益を害ねる者と判断し、法に基づき言論の自由を行使し、抗議・糾弾活動を行うんものとする。」との記載もなされていた。

(三)  「國粹青年隊」の二台の街宣車は、同月一六日午前一一時ころから一〇分間ほど、原告の自宅周辺を、人が歩くほどのゆっくりとしたスピードで走行し、スピーカーから大音量でアナウンスを流した。

右アナウンスの内容は、「インチキ宗教家どもに騙されてはいけません。また、有名な女優さん、歌手、スポーツ選手。そういった人達がそのようなところに入っていても信用してはいけません。洗脳されているに過ぎないわけです。洗脳され、そして自分もそのようなインチキ宗教家が霊媒師どもに手を加担しているに過ぎません。しかし、有名な有名人の方は、自分達が洗脳され、インチキ弁護士、インチキ宗教家に手を加担しているのに気がついていないのが現状であります。そういった洗脳されている人達、一般の人達も洗脳されている人達も一日も早く善良な精神と神経を取り戻してもらいたいと。また、インチキ宗教家が悪徳弁護士が一日も早く心改め、悔い改め我が国日本より新興宗教なる集団が活動を止め、被害者に対し謝罪。」というものであった。

(四)  右同日以降同月二五日まで、同月二一日を除き、別紙街宣活動表記載のとおり、合計二七回にもわたり、右(三)と同様の街宣活動が繰り返し行われ、これらの活動により、原告及び平は、平穏な生活を害されるとともに、精神的にも打撃を受けた。

(五)  同月二二日には、右街宣活動に加え、街宣車から人が降り、原告の自宅の呼鈴を押すに及んだ。平は、被告等が街宣活動に飽き足らず、実力行使に移ったのかと思い、怖くなって警察に通報した。

3 右2(一)ないし(四)の事実によれば、被告等は、原告につき宗教団体及び霊感商法との関係について報道されてから約一週間後、原告に対し、かかる宗教団体の広告塔ではないかと問い、場合によっては抗議、糾弾活動を行うとの内容の質問状を交付し、さらにその三日後からは、自宅周辺において、「女優」がかかる宗教団体に「入っていても信用してはいけません」という内容の声明を拡声器で繰り返し流したのであり、被告等の街宣活動は、原告に対する個人攻撃を目的として、原告を著しく誹謗中傷する内容のものであると認められる。また、被告等が右のとおりの街宣活動を行っていることを考慮すると、右2(五)の訪問行為は、原告及びその家人の生活の平穏を著しく害する態様のものと認められる。

ところで、何人も生命、身体、財産等を侵されることなく平穏に生活する人格権を有し、かかる人格権が著しく侵害され、かつ将来も侵害されるおそれがある場合には、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差し止めを求めることができるところ、被告等の右街宣活動、訪問行為は、原告の人格権を著しく侵害する行為というべきである。

そして、被告等は右のとおり街宣活動を繰り返しているのであるから、今後も同様ないし類似の方法で街宣活動を行うおそれが認められる。

4  被告は、自らの街宣活動は、二穣会の不法行為に加担した原告の不法行為につき、近隣住民に注意を促すための正当な行為であり、違法性がない旨主張する。しかし、被告の行為の目的はどうあれ、被告の街宣活動は、前記のとおり街宣車や拡声器を使用し、大音量で繰り返し原告を誹謗中傷する内容の声明を流すという著しく不穏な態様のものであり、その態様自体、正当な表現行為として許容されるべき範囲を逸脱しているというべきであって、右主張は到底採用することができない。

三  以上のとおりであるから、原告は、被告に対し、人格権に基づき、前記のような原告の自宅周辺において街宣活動をすること及び原告の自宅敷地内に入りその生活の平穏侵害行為に及ぶことの各差止めを求めることができるというべきであり、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・小磯武男、裁判官・太田晃詳、裁判官・國屋昭子)

別紙街宣活動状況表<省略>

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